健康経営

年間3.4兆円の損失?女性の健康課題が招く離職リスクと人事対策

作成日:2026年3月8日

はじめに

「女性活躍推進」という言葉が定着して久しいですが、現場では女性従業員の「急な欠勤」や「パフォーマンスのムラ」に頭を悩ませている人事担当者の方も少なくありません。実は、月経随伴症状(PMS)や更年期といった女性特有の健康課題による経済損失は、日本全体で年間約3.4兆円にものぼることが経済産業省の試算で明らかになっています。
本記事では、企業の生産性に直結する「女性の健康と経営課題」について、企業が取るべき現実的な対策をわかりやすく解説します。


1. 「目に見えない損失」:プレゼンティーイズムの正体

女性の健康課題が企業に与える損失は、欠勤(アブセンティーズム)だけではありません。より深刻なのは、「出勤はしているが不調により業務効率が著しく低下している状態(プレゼンティーイズム)」です。
経済産業省の試算によれば、月経随伴症状(生理痛やPMS)による労働損失のうち、約7割がこのプレゼンティーイズムによるものとされています。従業員がデスクに座っていても、実際には本来のパフォーマンスを発揮できていない「見えないコスト」が、日々発生している可能性があるのです。

 

2. 医学的根拠:PMSと更年期が労働生産性に与える影響

女性特有の健康課題による経済損失と離職リスク
女性の健康課題が労働生産性やキャリアに及ぼす影響について、研究結果や国の調査から以下の事実が示唆されています。

・PMS(月経前症候群)による10〜30代の生産性低下:月経痛やPMSで生活に支障を感じている女性は約7割に達し、そのうち約15%(約7人に1人)は日常生活が困難なほどの強い不調を抱えています。月に一度、数日間にわたって若手〜中堅層のパフォーマンスが30〜50%低下することは、年間約0.6兆円の経済損失となり、組織にとって極めて大きな機会損失です。

・更年期の壁とベテラン層の離職リスク:40〜50代の女性リーダー層を襲うのが、女性ホルモンの急激な変動や減少による更年期障害です。これによる経済損失は年間約1.9兆円にのぼります。不調を誰にも相談できず、責任感の強さから「これ以上迷惑をかけられない」と離職を選んでしまうケースもあり、経験豊富なマネジメント層の喪失は企業にとって大きな痛手となります。

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3. 人事労務ができる「組織的」な3つの支援策

「我慢」を美徳とする文化を脱却し、女性従業員が本来の力を発揮できる環境を整えるための具体的なアクションを整理します。

① ラインケア(管理職教育)の徹底
個人差の理解とサインへの気づき:女性特有の不調は外見からは分かりにくく、症状にも大きな個人差があります。管理職がこれを正しく理解し、ミスの増加や表情の変化といった不調のサインに気づける体制を作ることが、離職防止の第一歩となります。

② 柔軟な働き方の選択肢(テレワーク・時間単位休)
不調の波に合わせたセーフティネット:月経痛や更年期の症状(ほてり、動悸、倦怠感など)には波があります。「どうしても辛い数時間だけ横になれる」テレワークの活用や、時間単位の休暇制度を整備することは、プレゼンティーイズムを最小限に抑えるための有効な手段です。

③ 産業医・専門家への相談ルートの確立
医療と連携した就業支援:「婦人科へ行くほどではない」と不調を放置している従業員には、産業医面談を勧めてみましょう。面談を通じて、就業上の工夫で対応可能なのか、適切な医療機関を受診すべきかなど、専門的な助言を得ることができます。


まとめ

女性の健康課題を解消し働きやすい環境を整えることは、人材の定着や組織全体の生産性向上に直結します。「個人の悩み」として片付けるのではなく、仕組みを整えて「組織の力」に変えていく。これこそが、これからの人事労務に求められる戦略的な視点です。

産業医からのワンポイントアドバイス

女性特有の健康課題を扱う際、男性管理職から「デリケートな問題だから触れない方がいい」「セクハラになるのでは」と遠慮する声を聞くことがあります。人事担当者の皆様からは、「体調に波があるのは生理的な現象であり、それを前提にどうやって成果を出せる働き方をするか、一緒に考えよう」というフラットな姿勢を現場の管理職に伝えてあげてください。その「理解しようとしてくれている」という心理的安全性こそが、従業員にとって最大のサポートになります。

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参考文献

・Armour M, et al. The prevalence and academic impact of dysmenorrhea in 21,573 young women: a systematic review and meta-analysis. J Womens Health. 2019;28(8):1161-1171
・経済産業省. 女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について
・厚生労働省. 健康日本21(第三次)と女性の健康

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