産業医

従業員50人を超えたら必ず押さえる ─ 産業医選任と法定対応完全ガイド

作成日:2025年5月30日

はじめに

「常時使用する労働者が50人を超えたら産業医を選任する」。――このルール自体は比較的知られていますが、「14日以内に労働基準監督署へ届け出る必要がある」という点を見落とし、後から慌てて手続きを進めるケースは少なくありません。
労働安全衛生法第13条に違反した場合には、50万円以下の罰金が科される可能性もあるため、企業としては確実な対応が求められます。

本コラムでは、従業員が50人に達した時点で必要となる、5つの主要な法定義務について整理しました。
「そろそろ従業員数が50人に達しそう」「制度対応に抜け漏れがないか不安」と感じている企業担当者の方に、特に有用な内容です。

なお、本記事で取り上げる各義務における「50人」のカウントは、事業所単位で行い、正社員だけでなく、パート・アルバイト・派遣労働者なども含むことに留意が必要です。


法令が求める5つの義務

1.産業医の選任と届出

労働安全衛生法第13条により、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医の選任が義務付けられています。
選任後は、14日以内に「産業医選任報告書」を所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。

なお、業種や従業員数によっては、専属産業医の選任が必要なケース(例:製造業で1,000人以上等)もあるため、事前確認が重要です。

 

2.衛生管理者の選任と届出

衛生管理者は、職場の衛生水準を維持するための国家資格保有者です。
労働者が50人に達した場合、14日以内に衛生管理者を選任し、労働基準監督署へ届出を行う必要があります。
資格保有者が社内にいない場合には、新たに取得を計画するか、外部人材の活用を検討する必要があります。

 

3.衛生委員会の設置

労働安全衛生法により、従業員50人以上のすべての事業場において、衛生委員会の設置が義務付けられます。
衛生委員会は、職場の労働衛生に関する事項(健康管理、作業環境、感染症対策など)を定期的に審議する場です。
委員には、産業医、衛生管理者、労働者代表等を含め、毎月1回以上の開催と議事録の作成・保存(3年間)が必要です。

 

4.ストレスチェックの実施・結果の報告

ストレスチェック制度(労働安全衛生法第66条の10)により、労働者が50人以上の事業場では、年に1回以上のストレスチェックの実施が義務化されています。
厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」などを用い、実施後は「実施報告書」を労働基準監督署へ提出します。

なお、派遣労働者は人数カウントに含まれますが、ストレスチェックは「派遣元」が実施責任者となる点に注意が必要です。

 

5.定期健康診断結果報告書の提出

健康診断は、従業員が1人でも義務付けられていますが、常時50人以上の事業場では、健診結果の集計と「定期健康診断結果報告書」の提出が義務になります。

受診対象者は、1年以上の雇用予定かつ、週所定労働時間が正社員の4分の3以上の者。これには、条件を満たすパート・アルバイトも含まれるため、見落としがないよう注意が必要です。
なお、健康診断を受けさせなかった場合にも、使用者には50万円以下の罰金が科される可能性があります。


【補足】電子化対応にも要注意(2025年1月からの変更点)

なお、2025年1月より、産業医選任報告書・衛生管理者選任報告書・定期健康診断結果報告書など、一部の産業保健関連書類について電子申請が原則義務化されました(厚生労働省の定める「電子申請義務化制度」)。
従来は紙で提出していた事業者も、今後はGビズIDを取得し、e-Gov経由で電子提出を行う必要があります。

電子化対応は単なる提出方法の変化にとどまらず、社内の情報管理体制やスケジュール管理にも影響を与える可能性があります。早めに社内体制を整えておくことをおすすめします。

詳細については、厚生労働省のHPをご参照ください


おわりに

従業員が50人を超えることは、企業の成長において大きな節目です。しかしその一方で、労働安全衛生法上の義務も一気に増えるため、計画的かつ漏れのない対応が求められます
産業医選任をはじめとした5つの義務は、単なる法令遵守にとどまらず、「従業員の健康を守る仕組みを整える」ことそのものです。

企業としての信頼や持続的な成長のために、早めの準備と継続的な見直しを心がけましょう。

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