厚生労働省の公表によると、令和6年度の精神障害に関する労災請求件数は3,780件(前年度比+205件)、支給決定件数は1,055件(前年度比+172件)とどちらも過去最高を更新しました。
メンタル不調対応は企業活動の常態的リスクと捉える必要があります。本記事では、うつ兆候の早期発見から復職支援まで、企業が実務で活用できる手順を体系的にまとめました。
・勤怠変化:遅刻・欠勤・早退が増加
・業務パフォーマンス低下:ケアレスミス、アウトプットの低下
・対人行動の変化:会議や休憩中の会話の減少、身だしなみの乱れ
① 傾聴面談(管理職)
評価ではなく雑談15分。本人の主観を尊重し傾聴が主体。アドバイスを急がない。
② 産業医による面接指導
生活リズム・睡眠・食欲/ストレス要因/既往歴/事故・自殺念慮の有無などを聴取し、就業制限の要否を判断。本人の体調によっては即日療養も。
(月100時間超の時間外労働者は医師面談が義務。月80時間超は申出があれば実施/事業者は努力義務)
③ 主治医との連携
必要に応じて産業医が意見書を用意し、本人同意の上で主治医に連携。
④ 就業配慮/休職判定
短時間勤務・就業制限・休職を医学的所見に基づき検討。
産業医がいない場合には、主治医による診断書をもとに対応。
労働基準法第68条に基づき、医学的所見に応じて就業制限や短時間勤務を設定。職務負荷と回復状況を定期的に評価し、「短縮→通常」の段階的復帰を前提に計画を立てると再発防止に有効。
厚労省『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』は、下記の段階的な復職を推奨。
① 病気休業開始及び休業中のケア
管理監督者は診断書提出を人事へ共有し、休業手続・復職フローを速やかに説明。
労働者には休業給付・連絡窓口・復職時期の調整方法を伝え、安心して療養に専念できる環境を整える。
② 主治医による職場復帰可能の判断
復職希望があれば、事業者は主治医発行の「復職可・就業配慮意見付き診断書」を求め、作業内容情報を事前提供しておく。
産業医がその診断書と業務要件を照合し、必要な就業配慮や可否を最終判定することが重要。
③ 職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
産業保健スタッフが中心となり、管理監督者と労働者で連携しつつ情報を精査し、職場復帰可否判断と具体的な職場復帰支援プランを策定する。
④ 最終的な職場復帰の決定
産業医意見書で再発リスクと就業配慮を最終確認し、事業者が復職可否と配慮内容を決定・労働者へ通知する。
〜職場復帰〜
⑤ 職場復帰後のフォローアップ
職場復帰後は、管理監督者による観察と支援のほか、事業場内産業保健スタッフ等によるフォローアップを実施し、適宜、職場復帰支援プランの評価や見直しを行う。
◯ こころの耳(厚労省)
◯ いのちの電話
関連動画
YouTubeチャンネル『産業医 北口真生/働く人のヘルスケアラボ』
【その症状うつ病かも!?】初期サインから職場復帰まで完全ガイド
産業医選任義務のない 50 人未満の事業場でも、ストレスチェックの義務化が検討されています。早期段階から外部 EAP(従業員支援プログラム)やオンライン産業医を活用し、一次対応ルートを整備しておくことは、人事・管理職の心理的・実務的負担を大幅に軽減する有効策です。
いま求められるのは「不調が起きてから対応する」受け身の姿勢ではなく、日頃から予防と早期介入の仕組みを織り込んだ“メンタルヘルス・セーフティネット”を組織に内在化させること。 従業員一人ひとりの心身の健康を支えることは、企業の持続的成長と社会的信頼を守る最良の投資でもあります。明日からの一歩として、自社に合った外部資源の活用と社内教育の強化を同時に進め、安心して働ける職場づくりを着実に推進していきましょう。
参考・引用元
厚生労働省『令和6年度 過労死等の労災補償状況』
厚生労働省『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』