健康経営

社員が「がん」になったら?離職を防ぐ「治療と仕事の両立支援」

作成日:2026年1月7日

はじめに

従業員から「がんと診断されました」「難病が見つかりました」と突然の報告を受けた際、人事担当者としてどのように対応すべきか迷うことはありませんか?
「治療に専念してもらうため、休職や退職を勧めたほうが本人のためだろうか」と考える方もいるかもしれませんが、現代の労働環境において「病気=休職・退職」という図式はすでに古いものとなっています。
今回は、「治療と仕事の両立支援」の重要性と、人材の離職を防ぐために不可欠な「主治医・産業医・企業」の連携トライアングルについて解説します。


1. なぜ「両立支援」が必要なのか?企業の生存戦略としての健康管理

日本の労働力人口が高年齢化する中、働きながらがんや脳卒中、心疾患、難病などの治療を行う労働者は年々増加しています。また、不妊治療など、若年・中高年層を問わず定期的な通院が必要なケースも珍しくありません。
こうした状況下で、病気を理由に経験豊富な従業員が離職してしまうことは、企業にとって計り知れない損失となります。厚生労働省も「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を策定し、企業に対して積極的な支援体制の構築を求めています。両立支援は、単なる福利厚生や温情ではなく、人材定着と企業の生産性維持に直結する重要な「経営戦略」なのです。

 

2. 主治医の意見だけでは「安全に働く」には不十分

治療と仕事の架け橋となる産業医の存在
従業員が病気を抱えながら働く場合、病院の「主治医」から提出される診断書だけを頼りに就業を判断するのは、医学的・労務管理的にリスクが伴います。

・主治医は「職場のリアル」を知らない:主治医は病気の治療の専門家ですが、その従業員が職場で「重い物を運んでいるのか」「長時間のPC作業があるのか」「クレーム対応で強いストレスを受けているのか」といった具体的な業務負担を把握していません。そのため、「就労可能」と診断されても、実際には職場の環境が治療の妨げになったり、病状を悪化させたりする危険性があります。

・産業医による「就業上の翻訳」:ここで重要になるのが産業医です。産業医は、主治医からの診療情報(抗がん剤の副作用による倦怠感や、免疫力低下のリスクなど)を読み解き、「この治療状況であれば、出張や深夜業務は禁止すべき」「感染症リスクを下げるためテレワークを中心とすべき」といった、具体的な「就業上の配慮」へと繋げます。

 

3. 人事労務が構築すべき「両立支援トライアングル」の実践ステップ

病気を抱える従業員が無理なく働き続けられるよう、人事が主導して主治医・産業医と連携する具体的なアクションを整理します。

① 主治医からの「情報提供」を適切に得る
専用フォーマットの活用:ただ診断書をもらうのではなく、厚生労働省のガイドライン等で推奨されている「勤務情報を主治医に提供する書式」を活用しましょう。会社側から本人の業務内容(労働時間、作業姿勢、通勤手段など)を主治医に伝え、それに対する就業上の意見を書いてもらうことで、的確な医学情報を引き出すことができます。

② 産業医による「就業判定」と配慮事項の決定
面談によるすり合わせ:主治医からの情報をもとに、産業医と従業員で面談を行います。治療のスケジュールや副作用の状況を確認し、「どのような配慮があれば安全に働けるか」を産業医が判断し、会社へ意見(就業上の措置)を提出します。

③ 企業(人事・現場)による「両立支援プラン」の策定と実行
柔軟な働き方の提供:産業医の意見を踏まえ、人事と現場の管理職が連携して具体的な働き方(短時間勤務、時差出勤、テレワーク、通院のための休暇付与、業務内容の軽減など)を決定し、実行します。定期的に産業医面談を設定し、治療のフェーズに合わせてプランを見直していくことも大切です。


まとめ

治療と仕事の両立支援は、従業員に「病気になってもこの会社で働き続けられる」という強烈な安心感を与え、組織全体のエンゲージメントを向上させます。主治医・産業医と適切に連携し、柔軟な働き方を提供できる体制を整えましょう。両立支援の体制構築や産業医の活用にお悩みの際は、お気軽に弊社へご相談ください。

産業医からのワンポイントアドバイス

病気の診断を受けた直後の従業員は、大きなショックと「会社に迷惑をかけてしまう」「辞めなければならないのではないか」という強い不安を抱えています。報告を受けた人事担当者の皆様からは、まず第一声として「話してくれてありがとう。会社はあなたをサポートする制度も、相談できる産業医もいます」と伝えてあげてください。その一言が、従業員にとって何よりの救いになります。

参考文献

・厚生労働省. 「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」.

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