人事向け産業医

長時間労働面談はなぜ必要?過労リスクを防ぐ産業医面談と人事対応

作成日:2025年12月18日

はじめに

「長時間労働面談の対象者に勧奨しても『元気だから不要』と断られてしまう」。人事労務担当者の皆様、このようなお悩みはありませんか?長時間労働面談は単なる法的な義務ではなく、突然の過労死や重大な健康障害から従業員の命と企業を守るための最後の防衛線です。
本記事では、自己申告を鵜呑みにしてはいけない理由と、睡眠負債のリスク、そして人事が進めるべき効果的な面談の活用法についてわかりやすく解説します。


1. 「本人は元気だと言っている」の罠と安全配慮義務違反のリスク

長時間労働が続いている従業員に面談を勧めても、「仕事が回らなくなるから」と辞退されるケースがよくあります。しかし、疲労が極限まで溜まると、脳は防衛本能としてアドレナリンなどの興奮ホルモンを分泌するため、本人は「ハイな状態」になり、自身の疲労を正しく認識できなくなります。
過去の過労死に関する判例でも、「会社は本人の自己申告だけでなく、客観的な労働時間や疲労の蓄積状況を把握し、健康を損なわないよう配慮する義務がある」と厳しく指摘されています。「本人が大丈夫と言っていたから放置した」という理由は、万が一の事態において企業の安全配慮義務違反とみなされるリスクが非常に高いため、客観的な指標に基づく対応が求められます。

 

2. 睡眠負債が招く脳・心臓疾患リスクと認知機能低下

長時間労働による最大の健康被害は「睡眠時間の削減」によってもたらされます。睡眠負債が蓄積することの恐ろしさについて、研究結果から以下の事実が明らかになっています。

・認知機能は「酩酊状態」まで低下する:17時間連続して起きている(睡眠不足の)状態の脳の認知機能は、血中アルコール濃度が「ほろ酔い(酒気帯び運転の基準値レベル)」の時と同等、あるいはそれ以上に低下することが研究で証明されています。つまり、連日の長時間労働は、酔っ払った状態で仕事や運転をしているのと同じくらい、ヒューマンエラーや事故のリスクが高い状態と言えます。

・脳・心臓疾患リスクの劇的な上昇:数十万人を対象とした国際的な統合解析によれば、週55時間以上の長時間労働をしている人は、標準的な労働時間(週35〜40時間)の人と比較して、脳卒中を発症するリスクが約33%、虚血性心疾患(心筋梗塞など)のリスクが約13%有意に上昇することが確認されています。睡眠不足による血圧の上昇や自律神経の乱れが、血管にダイレクトなダメージを与えます。

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3. 人事労務ができる「長時間労働面談」の効果的な活用法

従業員の命と会社の法的リスクを守るため、人事が主導して産業医面談を効果的に組み込むためのアクションを整理します。

① 「面談は業務命令」というルールの徹底
就業規則に基づく客観的な運用:一定の基準(例:月60時間以上の時間外労働など)を超えた場合、本人の希望に関わらず「産業医面談の受診を必須(業務命令)」とするルールを就業規則等に定め、運用していくことをおすすめします。個人の意思に委ねず、健康を守るための客観的な仕組みを作ることが、会社が安全配慮義務を果たす第一歩となります。

② 産業医を「ドクターストップの専門家」として頼る
医学的判断に基づく業務調整:人事や直属の上司が「休んでほしい」と伝えても、現場の事情でなかなか休めないのが実情です。そんな時こそ産業医を活用し、「血圧が高く睡眠も取れていないため、医学的見地から今月の残業は制限が必要と判断します」と、ストップをかけてもらうことをおすすめします。医師の専門的な意見(事後措置)であれば、現場も納得して業務調整を進めやすくなります。

③ 面談前の丁寧な情報共有(勤怠と業務内容)
産業医への適切なインプット:面談前に、その従業員の直近数ヶ月の残業時間だけでなく、「なぜ残業が増えているのか(欠員補充か、新規案件か等)」といった背景事情を産業医に伝えておくことが大切です。これにより、産業医がより具体的で現場の実態に即した就業制限や環境改善のアドバイスを行いやすくなります。


まとめ

長時間労働面談は、決して形骸化した「お悩み相談」ではありません。睡眠負債による過労死やエラーのリスクを医学的に評価し、最悪の事態を防ぐための「企業の防衛線」です。従業員の自己申告に頼るのではなく、客観的な基準と産業医の専門性を活かして、社員が安全に働き続けられる健康的な組織づくりを進めていきましょう。

産業医からのワンポイントアドバイス

長時間労働面談について、「残業が多いから面談が必要です」とだけ伝えると、従業員は「怒られるのではないか」「評価が下がるのではないか」と警戒してしまいます。「いつも遅くまでお疲れ様。会社としてあなたの健康が一番大切だから、疲労が溜まっていないか産業医とチェックしてみてね」と、労いと感謝の言葉を添えて案内してみてください。その温かい一言が、従業員の安心感に繋がり、面談の質を大きく変えてくれます。私たち産業医も一緒になってサポートいたします。

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参考文献

・Kivimäki M, et al. Long working hours and risk of coronary heart disease and stroke: a systematic review and meta-analysis of published and unpublished data for 603,838 individuals. Lancet. 2015;386(10005):1739-1746

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