メンタルヘルス

社員のやる気低下は甘え?脳の仕組みと人事のモチベーション対策

作成日:2026年7月3日

はじめに

「仕事の手が進んでいない社員がいる」「休み明けからモチベーションが上がらないと相談された」。人事労務担当者の皆様、従業員のこのような様子を「気合や責任感が足りない」と個人の問題として片付けていませんか?
実は、医学的・脳科学的な見地から見ると、やる気が出ないのは性格のせいではなく、単に脳の「スイッチ」がオフになっているだけなのです。
本記事では、気合や根性に頼らず、脳の仕組みをうまく利用して「自然とやる気が湧いてくる」科学的なメソッドと、人事ができる社内への啓発方法についてわかりやすく解説します。


1. 「やる気を待つ」は逆効果?脳のスイッチ「側坐核」の秘密

多くの人は「やる気が出たら行動しよう」と考えがちですが、実は脳の仕組みからするとこの順番は逆なのです。
脳内でモチベーションを司る「側坐核(そくざかく)」という部位は、「動き始めないとスイッチが入らない」という非常にわがままな性質を持っています。まずは行動を起こすことで側坐核が刺激され、快楽物質であり努力のエネルギー源でもある「ドーパミン」が分泌されます。これを医学や心理学では「作業興奮」と呼びます。つまり、「やる気を待つ」という行動は、ガソリンを入れずに車のエンジンがかかるのを待っているのと同じ状態なのです。

 

2. なぜ「やる気」は消えてしまうのか?

脳のオーバーヒートと睡眠負債の影響
特に新年度や異動、繁忙期など環境が変わる時期にモチベーションが枯渇するのには、研究結果からも裏付けられる明確な医学的理由があります。

・脳のオーバーヒート(過剰適応による疲労):新しい環境や業務に適応しようとする時、脳は膨大な情報を処理しています。PCで言えばバックグラウンドで大量のアプリを開いている状態で、脳の処理能力がパンクし、フリーズしてしまいます。心理的ストレスが意欲や認知機能を低下させることが多くの研究で確認されています。

・睡眠負債による認知機能と意欲の低下:睡眠不足が認知機能や注意力、そしてモチベーションを著しく低下させることは、無作為化比較試験(RCT)を含む複数の研究で示されています。緊張やストレスで眠りが浅くなると、脳の疲労が回復しません。「やる気が出ない」状態は、脳が「少し休ませてくれ」と悲鳴を上げている重要なサインなのです。

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3. 人事労務が啓発したい「気合に頼らない」脳の起動ステップ

従業員がモチベーションの低下に悩んだ際、精神論ではなく科学的なアプローチでサポートできるよう、人事が社内へ啓発したい5つのステップを整理します。

① 4秒だけ動く(作業興奮の活用)
最初のハードルを極限まで下げる:「5分だけやろう」すら厳しい時は、「4秒」でできることだけをやるよう伝えます。PCの電源を入れる、資料のタイトルを1文字打つなど、ほんの少しでもやり始めれば側坐核が刺激され、自然と行動が促されます。

② If-Thenプランニングで自動化する
行動のルール化:「もしAが起きたら、Bをする」とあらかじめルール化しておく習慣術です。「朝コーヒーを一口飲んだら、メールを1通だけ返す」など、行動を自動化することで、選択にかかる脳のエネルギー消費を抑えられます。

③ ドーパミンの「小出し戦略」と「できたことリスト」
スモールステップと達成感:大きすぎる目標は脳を絶望させます。「今日はファイルを作るだけ」と小さな達成感を得ることでドーパミンを放出させます。また、その日達成したことを書く「できたことリスト」を作るのも、脳の報酬系を刺激するのに非常に効果的です。

④ 15分の戦略的昼寝(パワーナップ)
短時間の休息による覚醒:午後の強烈な眠気とやる気の減退には、15〜20分程度の短い昼寝がよく効きます。短い昼寝が認知能力を大幅に向上させることが研究でも示されており、組織としてパワーナップを推奨する文化を作ることも有効です。

⑤ 他人の力を借りる(環境を利用する)
適度な緊張感の活用:一人で頑張ろうとせず、「誰かに見られている」という適度な緊張感を利用して脳を覚醒させます。社内の共有スペースで仕事をするなど、環境を戦略的に利用するよう促しましょう。


まとめ

「やる気が出ない」と悩む従業員は、責任感が強く、過剰に適応しようと頑張りすぎているケースが少なくありません。モチベーションが上がらないことを責めるのではなく、脳の仕組みを理解し、ちょっとした工夫を取り入れることで無理なく行動できるようになります。人事労務としては、こうした科学的な知識を社内報や研修で提供し、従業員が自分自身をうまくコントロールできる環境をサポートしていきましょう。

産業医からのワンポイントアドバイス

従業員から「やる気が出ないんです」と相談を受けた際、人事や管理職の方はつい「目標を再確認しよう」「もっと頑張ろう」と励ましてしまいがちです。しかし、まずは「最近、しっかり眠れている?」「頭がパンパンになっていない?」と、脳と体の疲労に目を向けてあげてください。気合を注入するのではなく、ハードルを下げて「まずは4秒だけやってみよう」と背中を軽く押すことが、従業員の心を救い、結果として組織の生産性を高める第一歩になります。

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▼【動画解説】

「やる気を待つ人」は一生動けない|産業医が教える脳を4秒で起動する方法

 

参考文献

・Salamone JD, Correa M. The Mysterious Motivational Functions of Mesolimbic Dopamine. Neuron. 2012;76(3):470-485.
・Lim J, Dinges DF. A meta-analysis of the impact of short-term sleep deprivation on cognitive variables. Psychol Bull. 2010;136(3):375-389

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