新年度が始まり、職場でも懇親会や歓送迎会が増える季節になりました。親睦を深める場は大切ですが、翌朝、真っ青な顔で出社する部下や、アルコール残りが原因と思われるミスが散見されると、人事労務担当者としては「自己管理をしっかりしてほしい」と感じるものです。
本記事では、従業員が宴席を健康的に楽しみつつ、仕事のパフォーマンスを落とさないための医学的根拠に基づく「飲酒の科学」と、組織としての適切な飲酒管理術についてわかりやすく解説します。
「昨日はビールを5杯飲んだから飲みすぎた」といった肌感覚での管理から脱却し、お酒の種類を問わず「純アルコール量(g)」で管理することが現代の健康管理の基本です。
厚生労働省のガイドラインでは、生活習慣病のリスクを高める飲酒量を1日平均の純アルコール量で「男性40g以上、女性20g以上」と定義しています。ビール中瓶(500ml)1本に含まれる純アルコールは約20gです。事前に「今日は20gまでにしよう」と数値で目標を決めることが、翌朝へのダメージを防ぐ第一歩となります。
パフォーマンス低下と太りやすさのメカニズム
お酒の飲み方や量が、仕事のパフォーマンスや健康状態にどのような影響を与えるのか、研究結果から以下の事実が明らかになっています。
・寝酒による睡眠の質の悪化:アルコール摂取と睡眠に関する研究結果から、寝酒は一時的に入眠を早めるものの、睡眠の後半戦でレム睡眠を減少させ、中途覚醒を増加させることが証明されています。結果として「睡眠負債」が増大し、翌日の集中力や判断力の低下に直結します。
・空腹時の飲酒と血糖値スパイク:空腹状態での飲酒はアルコールの吸収を早めるだけでなく、お酒に含まれる糖質によって血糖値の乱高下を招きます。飲酒前にタンパク質や脂質を含んだ食事(枝豆や豆腐など)を摂ることで、胃の排泄速度が遅くなり、アルコールの血中濃度上昇が緩やかになることが確認されています。
職場の健康管理でお悩みなら
アルコールの影響には大きな個人差があります。これを無視した「みんな同じように飲む」文化はリスクでしかありません。人事として進めたい具体的なアクションを整理します。
① 「個人の特性」に配慮した風土づくり
性別や体質への理解:女性は男性に比べて体内の水分量が少なく、少ないアルコール量で肝障害などの影響を受けやすいことがわかっています。また、お酒を飲んで顔が赤くなる人(フラッシング反応)はアルコール分解酵素が弱い体質です。飲酒を強要しない心理的安全性の高い風土を啓発しましょう。
② 「チェイサー」と「締めの見直し」の推奨
健康的な飲み方の発信:アルコールには利尿作用があり、脱水が二日酔いの原因になります。お酒と交互に水(チェイサー)を飲むことや、「締めのラーメン」によるインスリンの過剰分泌と脂肪蓄積を防ぐため、「締めは温かいお茶にする」といった具体的なアクションを社内で発信することをおすすめします。
お花見や歓迎会を「単なる飲み会」で終わらせず、従業員一人ひとりが自分の適量(純アルコール量)と正しい飲み方を知る機会にしましょう。適切な飲酒管理は、健康診断の結果改善だけでなく、メンタルヘルスの安定や睡眠の質の維持にも繋がります。組織全体で正しい知識を共有し、健康的な働き方を推進していきましょう。
「お酒は百薬の長」というのは、現在の医学では明確に否定されています。特に「眠るためにお酒を飲む(寝酒)」習慣がある従業員には注意が必要です。アルコールは寝付きを良くしても、夜中の覚醒を増やし、睡眠の質を著しく下げてしまいます。「翌日のパフォーマンスを最大化したいなら、寝る3時間前以降は飲まない」。この意識を現場の共通認識にするだけでも、組織の生産性は大きく改善します。無理のない範囲で、日々の声かけから始めてみてください。
産業医の選任・見直しをご検討
▼【人事向け動画解説】
・Ebrahim IO, et al. Alcohol and sleep I: effects on normal sleep. Alcohol Clin Exp Res. 2013;37(4):539-549
・厚生労働省. 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン. 2024
コラム一覧に戻る