 
健診票の「基準値」はしばしば“正常値”と誤解されますが、基準値は“健康な人の95%が入る範囲”という統計的な目安にすぎません。診断や治療の判断は、各学会の臨床判断値(診断・治療の閾値)に基づきます。
本コラムでは、「忙しくてもこのラインを超えたら必ず受診」という現実的な目安を、最新の公的資料・学会ガイドラインに沿って整理します。
高血圧は自覚症状に乏しいまま動脈硬化を進め、脳卒中・心筋梗塞・腎疾患の主要因になります。
厚労省の健診プログラムと日本高血圧学会は、収縮期160mmHg以上 または 拡張期100mmHg以上は「すぐに医療機関受診」、140〜159/90〜99は生活改善を行い、それでも改善しなければ受診と明確に示しています。
なお診断の基本ラインは診察室140/90、家庭血圧135/85で、家庭血圧は連日測定の平均を用います
(参照:日本高血圧学会『高血圧治療ガイドライン2019』解説冊子)
受診をスムーズにするコツ
①健診票を持参、②1週間分の家庭血圧(朝夕)をメモ、③服薬歴・サプリ・飲酒量を一覧化。
初診でも方針決定が速くなります。
健診で用いられる主指標は空腹時血糖(FPG)、随時血糖、HbA1cです。
日本糖尿病学会は、FPG≥126 mg/dLまたはHbA1c≥6.5%(NGSP)を糖尿病型と定めています(OGTT 2時間値200 mg/dLも相当)。
厚労省の受診勧奨判定値もこれに一致し、どちらか一方でも超えていれば速やかに医療受診が推奨されます。
「すぐ薬?」と身構える方もいますが、軽症であれば生活療法(食事・運動)から始める場面もあります。放置せず、合併症(腎症・網膜症・神経障害)を未然に防ぐようにしましょう。
LDL(いわゆる悪玉)は低いほどリスク低下が原則です。
厚労省の健診体系では、LDL≥140 mg/dLを受診勧奨の目安、LDL≥180 mg/dLはより強い受診勧奨に分類されています。
さらにLDL≥180 mg/dLは家族性高コレステロール血症(FH)をまず疑うべき所見で、診断基準にも**“未治療時LDL≥180 mg/dL”が明記されています。
FHは若年から動脈硬化が進みやすい**ため、早期診断・早期治療がきわめて重要です
Q. 忙しくて病院に行けないのですが…
A. だからこそ受診を。生活改善が難しいほど多忙なら、薬物療法で先にリスクを下げる選択肢があります。特にBP≥160/100やHbA1c≥6.5、LDL≥180は先延ばしのデメリットが大きいです。
Q. 症状がないので様子見でいい?
A. 血圧・血糖・脂質は無症状でも進行します。“ある日突然”の脳心血管イベントを防ぐには、数値の段階で手を打つのが大切です。
Q. 薬を始めたら一生やめられない?
A. 必ずしも一生ではありません。 目標値到達後に生活改善を継続して減量・中止を検討することもあります。
LDL・血圧は全体リスクに応じた目標設定が大切です。
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健診は“受けて終わり”ではありません。従業員は結果を確認し、気になる点は早めに産業医や医療機関へ相談を行なってください。働き方の不安や必要な配慮があれば、上司・人事に遠慮なく共有しましょう。企業は受診案内や相談窓口、就業配慮のルールを明確にし、個人情報を厳格に守りつつオンライン面談や外部支援へ円滑に繋ぐ体制を常時稼働させることが重要です。互いに“早期対応を称賛する”文化が、安心と生産性を育てます。
参考・引用元
厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(受診勧奨判定値)」
日本高血圧学会『高血圧治療ガイドライン2019』解説冊子
日本糖尿病学会『糖尿病診断の指針(2024)』
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版
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