「うちは若い社員が多いから、がん対策はまだ早い」。人事労務担当者の皆様、現場でこのような認識にとどまっていませんか?実は、15歳〜39歳の「AYA(アヤ)世代」と呼ばれる若年層でも年間約2万人ががんと診断されており、働く世代全体で見れば「2人に1人」が直面する非常に身近な経営課題となっています。
本記事では、なぜ働く世代にこそがん対策が必要なのか、そして企業が今すぐ取り組むべき「貴重な人材を守る」ための検診推奨と治療と仕事の両立支援についてわかりやすく解説します。
がんは特別な人の病気ではなく、キャリア形成の真っ只中にある従業員を突如として襲う身近なリスクです。特にAYA世代のがん罹患は「進学・就職・結婚・出産」などの大きなライフイベントと重なる時期であるため、がんと診断されると「仕事はどうなるのか」「経済的にやっていけるだろうか」といった非常に深い悩みに直面します。
ここで企業にとって最も大きな問題となるのが、従業員が十分な相談ができないまま、自己判断で急に退職してしまう「びっくり離職」です。これは従業員本人の経済的困窮を招くだけでなく、企業にとっても採用や育成に投資した貴重な人材を失う多大な損失となります。したがって、従業員が長く健康に働き続けられるよう、人事労務が正しい知識を持ち、積極的ながん対策とサポート体制を構築することが急務と言えます。
検診と日々の習慣が命とキャリアを救う
がん対策においては、検診による早期発見と日々の生活習慣(禁煙・節酒・運動)の改善が不可欠であることが研究結果から示されています。
・早期発見がもたらす高い生存率:がん検診(便潜血検査やマンモグラフィなど)により、無症状の早期段階(ステージI)でがんを発見できれば、多くの種類で5年相対生存率が90%を超えます。適切な対象者に対し、適切なタイミングでの検診を促すことは、がん死亡率を有意に低下させます。
・アルコール摂取とがんリスクの相関:「酒は百薬の長」というのは昔の話であり、少量の飲酒であっても口腔がんや乳がんなどの特定のがんリスクを上昇させることが確認されています。健康面のみに焦点をあてると飲酒しないことが一番ですが、ストレス発散やコミュニケーションのツールにもなっているため、飲む場合は量や頻度に注意するよう啓発が必要です。
・座りすぎ(座位行動)のリスク:長時間の座りっぱなしの生活は、大腸がんや子宮内膜がんの発症リスクを高めることがわかっています。「まだ若いから」という油断を捨て、日々の生活習慣を意識的に見直すことが、結果として健康経営に直結します。
職場の健康管理でお悩みなら
従業員のがんリスクを減らし、万が一罹患した際も安心して働き続けられる職場を作るために、人事が主導して進めたいアクションを3つのステップで整理します。
① 国が推奨する「5大がん検診」の受診勧奨と啓発
適切な年齢と間隔での受診推奨:胃、大腸、肺、乳房、子宮頸がんの5つは、国が受診を推奨しています。特に20代からリスクが高まる「子宮頸がん」や、30代後半から急増する「乳がん」の検診について、定期的な社内周知を徹底しましょう。また、大腸がん検診の便潜血検査は、間欠的な出血を見逃さないためにも、必ず「2日分」提出することの重要性を合わせて啓発してください。
② 健康的な生活習慣を促す「環境づくり」
座りすぎ防止と運動の日常化:前述の通り、座りっぱなしはがんリスクを高めます。スタンディングでの短時間ミーティングの導入や、意図的に歩く動線をオフィス内に作るなど、職場で自然と動く仕組みを作りましょう。さらに、健康診断の結果返却時などに、喫煙や不適切な食習慣のリスクを産業医講話などを通じて継続的に伝えていくことが大切です。
③ 治療と仕事の「両立支援」と相談窓口の周知
がん相談支援センターの案内と風土醸成:万が一がんと診断された際、従業員が自己判断で離職しないよう、全国の「がん診療連携拠点病院」にある無料の「がん相談支援センター」の存在を日頃から周知しておきましょう。さらに、傷病手当金や高額療養費制度などの公的支援の案内とともに、「病気になってもサポートする」という会社のスタンスを明確にし、柔軟な働き方ができる制度を整えることが重要です。
がんは特別な病気ではなく、キャリアの途中で極めて高い確率で遭遇する身近なリスクです。だからこそ、「適切な検診の受診勧奨」と「生活習慣の改善サポート」、そして「両立支援の体制づくり」を組織的に進めることが、従業員の命とキャリアを守る大きな鍵となります。以下の動画でもがんリスクを高める生活習慣について詳しく解説していますので、社内での健康教育のきっかけとしてぜひご活用ください。
職場の仲間ががんになったとき、周囲はどう接するべきか戸惑うことが多いものです。人事担当者の皆様からは、「無理に病状を詮索しない」「過剰に仕事を奪わず、これまで通りの仲間として接する」といった関わり方のポイントを現場の管理職に伝えてあげてください。無責任な励ましやネットの民間療法を勧めるのではなく、「何か手伝えることがあれば言ってね」というスタンスで自然に寄り添うことが、当事者にとって一番の安心感につながります。私たち産業医も、両立支援の専門家として企業と従業員をサポートいたします。
産業医の選任・見直しをご検討
・Bagnardi V, et al. Alcohol consumption and site-specific cancer risk: a comprehensive dose-response meta-analysis. Br J Cancer. 2015;112(3):580-593.
・Schmid D, et al. Television viewing and time spent sedentary in relation to cancer risk: a meta-analysis. J Natl Cancer Inst. 2014;106(7):dju098.
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