6月は歯と口の健康週間ですが、歯科検診の案内をするだけで終わっていませんか?
歯の健康は、単なる「虫歯や歯周病の予防」にとどまらず、日々の「咀嚼(そしゃく=噛むこと)」を通じて、従業員の脳のパフォーマンスや集中力にダイレクトに影響を与えています。
今回は、午後の激しい眠気や集中力低下を防ぐための「噛む力」の重要性と、企業ができる食環境のサポートについて解説します。
多忙なビジネスパーソンは、デスクでPCを見ながらの「ながら食べ」や、短時間で食事を済ませる「早食い」に陥りがちです。しかし、噛む回数が減ることは、胃腸への負担を増やすだけでなく、食後の急激な血糖値上昇(血糖値スパイク)を招き、午後一番の「強烈な眠気」や「倦怠感」の引き金となります。
また、しっかり噛まないことで脳への刺激が減少し、長時間労働の中で集中力を維持することが難しくなります。「噛む力」の低下は、目に見えないプレゼンティーイズム(健康課題による生産性低下)の大きな要因なのです。
「噛む」ことの健康への効果
「噛むこと」が脳に与える影響について、研究結果から以下の驚くべき事実が明らかになっています。
・脳血流量の増加と認知処理速度の向上:ガムなどを一定時間咀嚼することで、脳の前頭前野(思考や判断を司る領域)の血流量が有意に増加し、テストにおける反応時間や集中力が向上します。
・ストレスの軽減と覚醒レベルの維持:リズミカルな咀嚼運動は、脳内の「セロトニン(神経伝達物質)」の分泌を促し、ストレスを緩和するとともに、午後の覚醒レベル(目の覚めた状態)を維持する効果があります。
・食後高血糖の抑制:ゆっくりよく噛んで食べることで、インスリンの分泌が適切に促され、午後の眠気の原因となる食後血糖値の急上昇を抑える効果が確認されています。
つまり、「しっかり噛むこと」は、コストとのかからない最強の「脳のパフォーマンス向上」のセルフケアなのです。
従業員の午後の集中力を維持し、健康的な食習慣を促すために、人事が主導すべきアクションを整理します。
① 「噛む回数」を増やす環境づくり
社員食堂・提供弁当の工夫:メニューに根菜類や玄米、ナッツ類など「自然と咀嚼回数が増える食材」を取り入れるよう工夫し、早食いを防ぐ食環境を整備します。
啓発アナウンスの実施:「一口30回」という目標はハードルが高いため、「飲み込む前にもう5回多く噛もう」といった実践しやすいキーワードを社内報等で啓発しましょう。
② ガムの咀嚼(噛むこと)の許容
業務中のガム摂取のルール化:接客業などを除き、デスクワーク中のガムの咀嚼を「集中力向上のためのセルフケア」として組織的に許容・推奨することも、生産性アップの有効な手立てとなります。
③ 根本的な「歯の健康」の維持
歯科検診の受診勧奨:そもそも「噛む力」を維持するためには、痛みなくしっかり噛める健康な歯が不可欠です。健保組合の補助などを活用した定期的な歯科検診の受診を強くアナウンスしてください。
歯と口の健康は、単なる病気予防ではなく、日中の「脳のパフォーマンス」を最大化するための重要なビジネススキルです。6月の歯と口の健康週間を機に、従業員が「しっかり噛んで、しっかり集中できる」職場環境の整備を進めていきましょう。具体的な健康教育の企画や、食環境の改善にお悩みの際は、お気軽に産業医へご相談ください。
「よく噛んで食べましょう」と指導しても、忙しい現場ではなかなか実践されません。人事担当者の皆様からは、「食事中、一口食べたらお箸を一旦テーブルに置く」という具体的なアクションを一つ提案してみてください。箸を置くことで物理的に早食いが防げ、自然と噛む回数が増えます。この小さな工夫が、午後の眠気を吹き飛ばす大きな力になります。
・Hirano Y, et al. “Effects of chewing on cognitive processing speed.” Brain and Cognition. 2013
・Weijenberg RAF, et al. “Mastication for the mind: the relationship between mastication and cognition in ageing and dementia.” Neuroscience & Biobehavioral Reviews. 2011
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