「まだ5月だから、熱中症なんて先の話だろう」。人事労務担当者の皆様、現場でこのような油断はありませんか?実は、1年の中で熱中症のリスクが急激に高まるのは、私たちの体がまだ「夏の準備」をできていない5月なのです。
本記事では、最新の医学的エビデンスに基づき、なぜ5月の熱中症が危険なのか、そして企業が今すぐ取り組むべき「攻め」の予防策についてわかりやすく解説します。
5月に熱中症が頻発する最大の原因は、「暑熱順化(しょねつじゅんか)」ができていないことにあります。暑熱順化とは、体が暑さに慣れ、効率よく汗をかいて体温を調節できるようになる生理的な変化のことです。
冬から春にかけて低い気温に慣れていた体は、5月の急な夏日(25℃以上)にすぐには対応できません。汗をかくのが遅れ、体内の熱を逃がせないまま深部体温が上昇し、本人が気づかないうちに脱水やめまいを引き起こしてしまうのです。

順化によるリスク低減効果
システマティックレビューなどの研究結果から、適切な暑熱順化プログラム(1日60〜90分の適度な暑さへの暴露)を1〜2週間継続することで、以下の生理的適応が起こることが確認されています。
・発汗開始の早期化:より低い体温から汗をかき始めるようになり、体温の急激な上昇を防ぎます。
・発汗量の増加と塩分喪失の抑制:効率よく体を冷やしつつ、汗に含まれるナトリウム(塩分)の濃度が下がり、ミネラルを温存できるようになります。
・血漿(けっしょう)量の増加:体を巡る血液の水分量が増え、心臓が効率よく働くことができ、循環器への負担が軽減されます。
この「2週間の準備期間」がないまま猛暑日に突入することが、5月の救急搬送者急増の最大の要因なのです。
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現場の熱中症を防ぎ、安全な労働環境を維持するために、人事や管理職が主導すべきアクションを整理します。
① 「暑熱順化期間」の設定と教育
軽い運動や入浴の推奨:ウォーキングや湯船に浸かる入浴などで、意図的に「じわりと汗をかく機会」を増やすよう従業員に啓発します。熱中症は正しい知識があれば防げるため、ガイドラインに基づいた最新の予防法を社内周知することが重要です。
② 環境の「見える化」と早期介入
WBGT(暑さ指数)の測定と強制給水:気温だけでなく、湿度や輻射熱を考慮したWBGT値を基準に休憩時間を調整しましょう。また、口渇感(のどの渇き)を感じた時点ですでに脱水は始まっています。時間を決めた「強制給水」のルールを設けるなど、個人の感覚に頼らない仕組みで解決を図ります。
③ 朝食欠食のチェックと改善指導
朝食を通じた水分・塩分補給:朝食を抜くことは熱中症リスクを著しく高めます。朝食は、午前中の活動に必要な水分と塩分の貴重な補給源です。特に5月の連休明けなど生活リズムが乱れやすい時期は、朝食摂取の重要性を改めて呼びかけることが強力な予防策となります。
熱中症というと7〜8月をイメージしがちですが、5月の今、すでにリスクは高まり始めています。暑熱順化という「体の準備」を組織的にサポートすることで、夏本番の労働災害ゼロを実現し、従業員の健康とパフォーマンスを維持していきましょう。
熱中症対策でよくある失敗が、「のどが渇いてから飲む」という指導です。のどの渇きを感じる段階では、すでに体重の1〜2%の水分が失われており、パフォーマンスは低下し始めています。人事担当者の皆様からは、「のどが渇く前に、一口でいいから水を飲もう」という具体的な合言葉を現場に浸透させてください。その「一口」の積み重ねが、従業員の命を守る確実な防衛線となります。
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▼【動画解説】
・Tyler CJ, et al. The Effects of Heat Adaptation on Physiology, Perception and Exercise Performance in the Heat: A Meta-Analysis. Sports Med. 2016;46(11):1699-1724
・日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン 2024
・厚生労働省. 熱中症予防のための指標:WBGT
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