人事向け健康経営

従業員の不眠を放置しない!人事が知るべき睡眠薬の最新知識

作成日:2026年9月16日

はじめに

「最近、従業員の遅刻が増えた」「日中にうとうとしている社員がいる」といった悩みはありませんか?従業員の睡眠不足は、単なる個人の生活リズムの問題ではなく、企業の生産性や安全管理を揺るがす重要な労務リスクです。
本記事では、不眠放置による企業リスクを整理するとともに、最新の「睡眠薬」に関する医学的知識をわかりやすく解説します。


1. 従業員の不眠放置がもたらす企業リスクとは?

従業員の「不眠」や「日中の強い眠気」は個人の生活習慣の問題として片付けられがちですが、睡眠障害の放置は企業にとって無視できないリスクとなります。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、慢性的な睡眠不足が高血圧や糖尿病といった生活習慣病の発症リスクを上昇させると警告されています。さらに、不眠はうつ病などのメンタルヘルス不調の重大な引き金となることも明らかになっており、休職者の増加に直結する課題です。
また、不眠は労働生産性の観点でも深刻な悪影響を及ぼします。出勤はしているものの、心身の不調によって本来のパフォーマンスが発揮できない「プレゼンティズム」の大きな要因の一つが睡眠障害です。日中の集中力低下や判断ミスは、業務効率を低下させるだけでなく、場合によっては重大な労働災害やヒヤリハットに繋がるリスクもあります。
このように、従業員の良質な睡眠を確保することは、企業が果たすべき安全配慮義務の一環であり、健康経営の根幹をなす要素と言えます。「最近ミスが増えた」「遅刻が多くなった」といった勤怠の乱れや行動の変化は、睡眠トラブルのサインである可能性が高いため、人事労務担当者はこれらのサインをいち早くキャッチし、対応を取ることが求められます。

2. 解説:睡眠薬の進化と「依存・副作用」の誤解

「睡眠薬は一度飲むとやめられなくなる」そんなイメージから、不眠に悩んでいても医療機関への受診をためらう方は少なくありません。以前主流だったベンゾジアゼピン系の薬は、脳の活動を低下させて眠りを誘う仕組み上、長く使うと耐性や依存性といった課題がありました。しかし近年、睡眠薬の治療は大きく進歩しています。
現在では、無理に脳の機能を抑え込むのではなく、自然な眠りのリズムを整えたり、過剰な脳の覚醒を和らげたりする「新しいタイプのお薬」が登場しています。これらは、従来のものに比べて依存性や副作用のリスクが大幅に低いのが特徴です。

代表的なものが、睡眠リズムを整えるホルモンに働きかける「メラトニン受容体作動薬(ロゼレムなど)」や、覚醒に関わる物質の働きをブロックすることで眠気を誘う「オレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ、デエビゴなど)」です。これらの新薬は、従来の薬が持っていた耐性や依存性の問題が大幅に改善されており、比較的安全に使用しやすいのが特徴です。
さらに直近では、オレキシン受容体拮抗薬の中でもより早く効き、かつ短時間で体内から消失することで翌日への眠気の持ち越しを抑えた「ダリドレキサント(クービビックなど)」も登場しています。

項目 従来の睡眠薬(ベンゾジアゼピン系等) 新しい睡眠薬(オレキシン受容体拮抗薬等)
作用の仕組み 脳全体の機能を低下させ、リラックスさせる 覚醒を抑え、自然な眠気に導く
耐性・依存性のリスク 形成されやすく、長期使用には注意が必要 比較的低く、安全性が高い
主な副作用・注意点 翌日の眠気、ふらつき、前向性健忘など 悪夢など(最新薬は翌日への持ち越しも改善傾向)

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3. 人事労務ができる「組織的」な具体的対策

人事労務担当者として、睡眠障害を抱える従業員に対しては、個人の自助努力に任せるのではなく、組織として適切なサポート体制を構築することが重要です。ここでは、具体的な2つのステップを解説します。

① 不眠のサインを見逃さず、適切な受診を促す

よくある失敗として、日中の居眠りや集中力低下が見られる従業員に対して、背景にある健康状態を確認せず頭ごなしに指導してしまうケースがあります。これは本人の心理的負担をさらに増大させ、メンタルヘルス不調を悪化させる原因となります。勤怠の乱れやパフォーマンスの低下は、睡眠障害が隠れている重要なサインと捉え、まずは丁寧なヒアリングを行うことが求められます。
ヒアリングの際は、プライバシーに配慮した上で、睡眠の状況や日中の体調について客観的に事実を確認します。そして、生活習慣の改善だけで解決が難しいと思われる場合は、早期に医療機関(内科や精神科など)への受診を勧奨することが重要です。また、自社の産業医面談を活用し、専門的な立場から不眠の原因評価や受診のアドバイスを行ってもらう仕組みを整えておくことも、非常に有効な対策となります。

② 睡眠薬服用中の従業員への配慮と安全配慮義務

従業員が医療機関を受診し、睡眠薬による治療を開始した場合には、就業上の配慮を行う必要があります。特に、古いタイプの睡眠薬を使用している場合や、薬の量が調整段階にある場合、ふらつきや翌朝への眠気の持ち越しといった副作用が生じるリスクがあります。車やフォークリフトの運転、高所作業、危険を伴う機械操作などを担う従業員の場合、これらの副作用は重大な労働災害に直結するため、非常に危険です。
このような事態を防ぐため、企業は安全配慮義務の観点から、従業員の服薬状況を適切に把握する体制が求められます。ただし、服薬情報の取得には個人の同意が必要となるため、産業保健スタッフ(産業医や保健師)を窓口として情報を集約し、人事や現場の管理監督者へは「就業上の配慮に必要な事項」のみを伝える運用が望ましいです。必要に応じて、薬の副作用が安定するまでの間は危険作業から外す、配置転換を行うなどの具体的な措置を講じましょう。

☑ 確認すべきポイント

  • □ 日中の強い眠気や遅刻を、単なる「怠慢」として片付けていないか
  • □ 不調を抱える従業員が、産業医等の専門家に気軽に相談できる窓口はあるか
  • □ 危険作業を伴う業務において、服薬状況に基づく適切な安全配慮が行われているか

まとめ

従業員の不眠は、生活習慣病やうつ病のリスクを高め、企業の生産性を著しく低下させる深刻な課題です。睡眠薬に対する古いイメージから受診をためらう従業員も多いですが、現在は依存性や副作用が低減された新しい薬が多数登場しており、適切な治療により早期の改善が見込めます。
人事労務担当者は、不眠のサインを見逃さず、医療機関への受診勧奨や産業保健スタッフとの連携による就業上の配慮など、組織的なアプローチで従業員の健康と安全を守っていくことが求められます。

産業医からのワンポイントアドバイス

日々の産業医面談において、「眠れないけれど薬には頼りたくない」と限界まで我慢してしまう従業員の方に多くお会いします。しかし、慢性的な不眠は脳と身体の疲労を蓄積させ、結果的に長期間の休職に至るケースも少なくありません。現代の医療では、個々の症状に合わせて安全に使える薬の選択肢が格段に広がっています。
企業側から「専門家の力を借りて、まずはしっかり眠ることから始めましょう」と背中を押してあげることは、従業員の心理的安全性を高め、健康回復への大きな第一歩となります。自社内での対応に迷われた際は、ぜひ我々産業医にご相談いただき、共に最適な解決策を見つけていきましょう。

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▼【動画解説】

睡眠薬10種類を医師が完全解説|依存しない薬の選び方

参考文献・参考資料

・厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド2023
・厚生労働省. 労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する
指針

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