「朝食は本当に必要?」という問いに、研究の積み重ねは穏やかに“イエス”寄りの答えを示しています。もちろん体質や生活様式には例外があり、時間制限食など医療者の管理下で朝を抜く戦略が役立つ人もいます。ただ、多くのビジネスパーソンにとっては“朝に少しでも食べる”ほうが、健康面でも1日のコンディションづくりでもメリットが大きいことが明らかになってきました。
観察研究では、朝食を抜く習慣が2型糖尿病の発症とおよそ2割強高く結びつくことが報告されています。体格(BMI)などを調整した後も相関は残り、週4日以上の欠食で関連が最も強まるという解析もあります。循環器領域でも、男性医療職を16年追った大規模研究で朝食を食べない人は冠動脈疾患の発症が27%多いという結果が示されました。
一方、実験的な試験からは仕組みのヒントが見えます。朝食を抜くと、その日の昼食後の血糖上昇やインスリン反応が悪化しやすい、つまり午前中の“空っぽ”が午後の血糖スパイクを招く、という現象です。これらは因果を断定するものではありませんが、「食べる」ほうが1日の代謝が安定しやすいという方向は、多くの研究で概ね一致しています。
「食べる/食べない」だけでなく**“早めにひと口”が鍵です。大規模コホートでは、初回摂食が9時以降の人は8時前に食べる人より糖尿病のハザードが高いという報告があり、体内時計の観点からも朝の早い時間帯に代謝を“始動”させるメリットが示唆されます。忙しい朝でも起床後2時間以内に、ヨーグルト半カップやゆで卵1個など小さな一品**を入れるだけで十分な第一歩になります。
発想はシンプルです。①まず食べる ②たんぱく質を確保 ③食物繊維を添える ④余裕があれば発酵食品も。これは厚労省×農水省の「食事バランスガイド」(主食・主菜・副菜+乳製品・果物)の考え方とも整合します。
たとえば、全粒パン+卵+サラダの洋風セット、雑穀ごはん+納豆+焼き鮭+具だくさん味噌汁の和定番、ギリシャヨーグルトにオートミール・ベリー・ナッツを混ぜる時短ボウル。いずれもたんぱく質20〜30g+食物繊維を狙いやすく、午前の集中力や午後の間食欲求の抑制に寄与します(高たんぱく朝食で満腹感が持続し、夜の食べ過ぎが減ったという介入報告もあります)。
菓子パンと甘い飲料、加糖シリアルだけ、朝のファストフードは、総じて糖質に偏りがちでたんぱく質が足りず、血糖が乱高下しやすい組み合わせです。WHOは自由糖(フリーシュガー)を総エネルギーの10%未満(可能なら5%未満)に抑えるよう提案しています。“絶対ダメ”ではなく“平日の常用を避ける”意識で十分。迷ったら、甘い飲み物を無糖に、パンを全粒に、たんぱく質を1品足す——この3つだけでも体感が変わります。
断食系の食事法(時間制限食など)が合う人もいます。ただし妊娠・授乳中、成長期、既往症や服薬がある場合は、自己判断での極端な食事変更は避け、医療者に相談してください。苦手な朝は「食べられる日を増やす」ことからでOK。ゼロか100かではなく、“ゼロの日を減らす→質を少しずつ上げる”の段階戦略が長続きします。
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YouTubeチャンネル『産業医 北口真生/働く人のヘルスケアラボ』
【朝食論争に決着】朝ごはん食べる?食べない?現役医師が研究データを基にわかりやすく解説します!
朝の“ひと口”は、その日の血糖・食欲・気分の波を穏やかにし、結果として仕事のパフォーマンスを底上げします。従業員は朝8時前後までに少量でも口に入れ、たんぱく質+食物繊維を意識。企業は会議開始時刻や休憩設計を見直し、睡眠と朝食が両立しやすいリズムを整えると、プレゼンティーイズムの軽減や安全性向上にもつながります。オフィスにプレーンヨーグルトや無糖飲料、ナッツを置く、といった小さな仕掛けから始めてみてください。大切なのは完璧さではなく、実行可能な一歩です。
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