 
近年の猛暑は、もはや夏の一時的な現象ではなく恒常化しています。熱中症は屋外だけでなく、冷房の効いたオフィスや自宅などの室内でも多発しており、令和6年度(2024年)には救急搬送者が過去最多を記録。その約4割は「自宅」での発症でした。「屋内は安全」という思い込みが、予防の遅れや重症化につながっています。
特に建設業や製造業など、高温環境での作業が避けられない職種では、職場での死亡・重症例が依然多く報告されています。こうした状況を受け、2025年6月1日からは職場での熱中症対策が法的義務として強化され、事業者には体制整備や教育の徹底が求められています。
本コラムでは、最新の統計データ、義務化のポイント、そして職場・個人で取り組むべき具体策を、実践的なガイドとして整理しました。
| 指標 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 参考 | 
|---|---|---|---|---|
| 救急搬送数 | 71,029人 | 91,467人 | 97,581人 (過去最多) | 消防庁 (5月〜9月) | 
| 住居での 発生割合 | 39.5% | 39.9% | 38.0% | 消防庁 (5月〜9月) | 
| 職場での 死傷者数 (重症+死亡) | 827人 (死亡30人) | 1,106人 (死亡31人) | 1,257人 (死亡31人) | 厚生労働省 | 
ポイント
・「屋内=安全」という認識は危険。オフィスや自宅でも、体感に頼らず冷房・換気・湿度管理を徹底する。
・死傷者数は建設業・製造業で特に多く、初動の遅れが死亡に直結するケースも少なくない。
| 区分 | 主な症状 | 対応 | 
|---|---|---|
| 軽症 | めまい 立ちくらみ こむら返り | 日陰や涼しい場所で休憩し、 水分補給を行う | 
| 中等症 | 頭痛 吐き気 大量発汗 | 医療機関の受診を検討 | 
| 重症 | 意識障害 けいれん 尿量減少 | 直ちに119番通報し、 首・腋・足の付け根を集中的に冷却 | 
ポイント
・意識障害がある場合は無理に水分を飲ませない(誤嚥の危険あり)。
・判断に迷った時点で救急要請を優先する。
① 環境対策
・室温28 °C未満を維持(遮光も併用)
・エアコンの適切運転と定期的換気で湿度を40〜60%に管理
・WBGT計やスマホアプリで熱中症指数を見える化し、共有ボード等で周知
② 作業対策
・作業は15〜30分ごとに分割し、水分休憩を必ず挟む(喉の渇きを指標にしない)
・通気性・吸汗速乾素材の作業服や空調服を活用
・暑熱順化(入浴・サウナ・軽運動)を習慣化。ただし効果は1〜2週間で減弱するため継続が必要
③ 個人対策
・こまめな水・塩分補給(目安:1時間あたり100mL以上)
・高齢者・持病のある人への声かけと見守り
・睡眠不足や飲酒翌日の作業はリスク増大
1.声かけ・症状確認 → 作業停止し日陰や涼しい場所へ移動
2.意識が朦朧・けいれん等 → 直ちに119番通報
3.意識がある場合 → 冷却+経口補水液やスポーツドリンクで水分補給
4.体温38℃以上が続く、または症状改善なし → 医療機関受診
冷却のポイント
首・腋の下・太腿の付け根など太い血管のある部位を重点的に冷やし、服を緩めて扇風機やうちわで気化熱を促進する。
2025年6月1日に改正労働安全衛生規則が施行されました。
【対象】
WBGT28 °C以上または気温31 °C以上の環境で、連続1時間以上 or 1日4時間超の作業がある事業場
【事業者義務】
・体制整備:症状報告ルート、緊急連絡網の作成
・手順策定:作業離脱→冷却→医療機関受診のフローをマニュアル化
・関係者への周知:衛生委員会・イントラネット・掲示板等で共有
詳細については、厚生労働省の資料をご参照ください。
水 1 L + 砂糖 40 g + 塩 3 g + レモン果汁少量
※成人の推奨摂取量は1日500mL〜1L。屋外活動時のみ活用し、飲みすぎには注意。
関連動画
YouTubeチャンネル『産業医 北口真生/働く人のヘルスケアラボ』
【熱中症対策】室内でも警戒!初期症状から簡単にできる対策を産業医が解説!
1.救急搬送者の約4割は室内で発生。屋内でも油断は禁物。
2.WBGT28℃(気温31℃)を超えたら30分に1回の水分休憩を徹底。
3.判断に迷ったらすぐに119番。初動遅れは重症化の最大要因。
熱中症対策は、夏だけの臨時対応ではなく年間を通じた習慣づくりが鍵です。
「WBGTの見える化」「休憩ルール」「教育」の三本柱を整え、社員の安全と生産性を守りましょう。
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