ヘルスケア

熱中症対策完全版 ─ 2025年6月より企業も義務化

作成日:2025年7月31日

はじめに

近年の猛暑は、もはや夏の一時的な現象ではなく恒常化しています。熱中症は屋外だけでなく、冷房の効いたオフィスや自宅などの室内でも多発しており、令和6年度(2024年)には救急搬送者が過去最多を記録。その約4割は「自宅」での発症でした。「屋内は安全」という思い込みが、予防の遅れや重症化につながっています。

特に建設業や製造業など、高温環境での作業が避けられない職種では、職場での死亡・重症例が依然多く報告されています。こうした状況を受け、2025年6月1日からは職場での熱中症対策が法的義務として強化され、事業者には体制整備や教育の徹底が求められています。

本コラムでは、最新の統計データ、義務化のポイント、そして職場・個人で取り組むべき具体策を、実践的なガイドとして整理しました。


1.最新データ:搬送者は過去最多、4割が「家の中」

 

指標

2022年

2023年

2024年

参考

救急搬送数

71,029人

91,467人

97,581人

(過去最多)

消防庁

(5月〜9月)

住居での

発生割合

39.5%

39.9%

38.0%

消防庁

(5月〜9月)

職場での

死傷者数

(重症+死亡)

827人

(死亡30人)

1,106人

(死亡31人)

1,257人

(死亡31人)

厚生労働省

 

ポイント

・「屋内=安全」という認識は危険。オフィスや自宅でも、体感に頼らず冷房・換気・湿度管理を徹底する。

・死傷者数は建設業・製造業で特に多く、初動の遅れが死亡に直結するケースも少なくない。

 

2.熱中症とは? 3段階のサイン

 

区分

主な症状

対応

軽症

めまい

立ちくらみ

こむら返り

日陰や涼しい場所で休憩し、

水分補給を行う

中等症

頭痛

吐き気

大量発汗

医療機関の受診を検討

重症

意識障害

けいれん

尿量減少

直ちに119番通報し、

首・腋・足の付け根を集中的に冷却

 

ポイント

・意識障害がある場合は無理に水分を飲ませない(誤嚥の危険あり)。

・判断に迷った時点で救急要請を優先する。

 

3.予防のための対策

① 環境対策

室温28 °C未満を維持(遮光も併用)

・エアコンの適切運転と定期的換気で湿度を40〜60%に管理

・WBGT計やスマホアプリで熱中症指数を見える化し、共有ボード等で周知

 

② 作業対策

・作業は15〜30分ごとに分割し、水分休憩を必ず挟む(喉の渇きを指標にしない)

・通気性・吸汗速乾素材の作業服や空調服を活用

暑熱順化(入浴・サウナ・軽運動)を習慣化。ただし効果は1〜2週間で減弱するため継続が必要

 

③ 個人対策

・こまめな水・塩分補給(目安:1時間あたり100mL以上

・高齢者・持病のある人への声かけと見守り

・睡眠不足や飲酒翌日の作業はリスク増大

 

4.発症時の対応フロー

1.声かけ・症状確認 → 作業停止し日陰や涼しい場所へ移動

2.意識が朦朧・けいれん等 → 直ちに119番通報

3.意識がある場合 → 冷却+経口補水液やスポーツドリンクで水分補給

4.体温38℃以上が続く、または症状改善なし → 医療機関受診

冷却のポイント
首・腋の下・太腿の付け根など太い血管のある部位を重点的に冷やし、服を緩めて扇風機やうちわで気化熱を促進する。

 

5.職場義務化のポイント

2025年6月1日に改正労働安全衛生規則が施行されました。

【対象】

WBGT28 °C以上または気温31 °C以上の環境で、連続1時間以上 or 1日4時間超の作業がある事業場

【事業者義務】

体制整備:症状報告ルート、緊急連絡網の作成

手順策定:作業離脱→冷却→医療機関受診のフローをマニュアル化

関係者への周知:衛生委員会・イントラネット・掲示板等で共有

 

詳細については、厚生労働省の資料をご参照ください。


【補足】

経口補水液の自宅レシピ

水 1 L + 砂糖 40 g + 塩 3 g + レモン果汁少量

※成人の推奨摂取量は1日500mL〜1L。屋外活動時のみ活用し、飲みすぎには注意。

関連動画

YouTubeチャンネル『産業医 北口真生/働く人のヘルスケアラボ』
【熱中症対策】室内でも警戒!初期症状から簡単にできる対策を産業医が解説!


まとめ

1.救急搬送者の約4割は室内で発生。屋内でも油断は禁物。

2.WBGT28℃(気温31℃)を超えたら30分に1回の水分休憩を徹底。

3.判断に迷ったらすぐに119番。初動遅れは重症化の最大要因。

熱中症対策は、夏だけの臨時対応ではなく年間を通じた習慣づくりが鍵です。
「WBGTの見える化」「休憩ルール」「教育」の三本柱を整え、社員の安全と生産性を守りましょう。

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