午後の業務や会議中、まぶたが重くなり集中力が切れてしまう従業員の姿を見かけることはありませんか?これは単なる「睡眠不足」や「気合の足りなさ」ではなく、「血糖値スパイク」と呼ばれる現象が引き起こしている可能性があります。
本記事では、産業医視点で血糖値と仕事の生産性の関係、そして「食事術」についてわかりやすく解説します。
健康診断の血液検査で調べる血糖に関する項目は、主に2種類あります。「空腹時血糖」は現時点での血糖値を、「HbA1c」はここ1~2か月の平均的な状態を表します。これらの数値が正常であっても、食後に一時的に血糖値が急上昇・急降下する現象が「血糖値スパイク」です。
長時間の欠食(飢餓状態)から急に食事をすると、急激な血糖上昇が起こり体への負担が大きくなります。血糖値が急上昇すると、それを下げるために膵臓から「インスリン」というホルモンが大量に分泌されます。この血糖値の乱高下が、強烈な眠気、だるさ、イライラ、集中力の低下を引き起こす大きな要因の1つとなるのです。
血糖値を安定させ、1日を通じて高いパフォーマンスを維持するためには、日々のちょっとした工夫が有効であることが医学的にも実証されています。
・「食べる順番」を変える(ベジ・ファースト):複数のランダム化比較試験において、炭水化物(糖質)の前に野菜(食物繊維)や肉・魚(タンパク質)を摂取することで、食後の血糖値上昇が有意に抑えられることが証明されています。「おにぎりだけ」「うどんだけ」といった単品ランチは血糖値を急上昇させやすいため、まずはサラダや小鉢から手をつけるよう意識づけることが有効です。
・食後すぐに「軽く動く」:食直後はすぐに座らず、ウォーキングなどの軽い活動を取り入れることが推奨されます。システマティック・レビューにおいても、「食後数分間の軽い歩行」が食後血糖値のピークを有意に抑えることが確認されています。
職場の健康管理でお悩みなら
個人の自己責任に留めず、組織として従業員の血糖値スパイクを防ぐ環境を整えていくための具体的なアクションを提案します。
① 欠食を防ぐ環境づくり
規則正しい食事の推奨:忙しいからと朝食を抜く従業員は少なくありません。欠食していた時間が長いと、次の食事を食べたときに血糖値が急上昇しやすくなります。少しでもよいので欠食をなくし、規則正しく食事をとれるよう、柔軟な働き方の導入やオフィスでの軽食提供などを検討することをおすすめします。
② 「食後の軽い運動」の啓発
ランチ後の行動を変える:食後すぐにデスクで仮眠を取ることを推奨する企業もありますが、実は食後15分程度は「座りっぱなし」を避けて少し歩く方が、午後の眠気覚ましには効果的です。「ランチの後は、少し遠回りのルートでオフィスに戻ろう」といった声かけを行い、食後の軽い移動を促していきましょう。
「午後になるとミスが増える」「会議の生産性が低い」といった人事課題の背景には、従業員の食事習慣が潜んでいるかもしれません。高血糖の状態が続くと糖尿病となるリスクがあり、進行すると失明や人工透析に至る可能性もあります。「食後の軽い散歩を推奨する」「社食のメニューに小鉢を追加する」といった環境整備を行うことで、組織全体のパフォーマンスの底上げに繋がります。日々の小さな工夫から、従業員の健康を守る取り組みを進めていきましょう。
「野菜から食べる」「食後に少し歩く」といったアドバイスは、説教くさくならずに日常会話の中で伝えやすいトーンかと思います。現場の管理職の方々から「午後の眠気対策に、少し歩いてみませんか?」といった気軽な声かけを発信してもらうだけでも、従業員の意識は少しずつ変わっていきます。完璧な食事制限を求めるのではなく、無理なく続けられる小さな習慣から始めることが大事です。
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▼【動画解説】
・Shukla AP, et al. Carbohydrate-last meal pattern lowers postprandial glucose and insulin excursions in type 2 diabetes. BMJ Open Diabetes Res Care. 2017;5(1)
・Reynolds AN, et al. The Acute Effects of Interrupting Prolonged Sitting Time in Adults with Standing and Light-Intensity Walking on Biomarkers of Cardiometabolic Health in Adults: A Systematic Review and Meta-analysis. Sports Med. 2022;52(8)
・厚生労働省. e-ヘルスネット「食後高血糖」
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