「血圧が少し高いけれど、痛くも痒くもないし仕事に支障はないから大丈夫」。貴社の従業員の中に、このように健康診断の結果を軽く考えている方はいませんか?高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれ、自覚症状がないまま血管にダメージを与え続け、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞といった重大な事態を引き起こします。
本記事では、医学的根拠に基づき、減塩以外に血圧を下げる効果が実証されている「4つの生活習慣」と、人事ができる事後措置の仕組みについてわかりやすく解説します。
高血圧の状態が続くと、血管は常に高い圧力にさらされ、次第に硬くもろくなっていきます(動脈硬化)。厚生労働省の資料によると、正常血圧の人と比較して高血圧(Ⅱ度以上:160/100mmHg以上)の人は、脳卒中や心臓病を発症するリスクが約5倍にまで跳ね上がることが示されています。「自覚症状がないから」と放置することは、いつ破裂するかわからない爆弾を抱えて働いているのと同じ状態なのです。
厚生労働省の基準では厳しい塩分制限が目標とされていますが、完璧な減塩が難しいからといって諦める必要はありません。研究結果によると、以下の習慣改善が血圧低下に有意な効果をもたらすことが証明されています。
・「プラス10分」の歩行(運動習慣):ウォーキングなどの有酸素運動を継続することは、血圧を下げ、循環器疾患による死亡リスクを低下させることが示唆されています。いきなりハードな筋トレを始める必要はなく、「今より10分多く歩く」ことから促していくことをおすすめします。
・アルコールの「適量」を守る(節酒):飲酒量と血圧には明確な相関関係があります。また、飲酒時間が長くなることでおつまみも進み、結果的に塩分過多になりやすいため、適量飲酒を心がけることが血圧改善に直結します。
・睡眠の「質」を確保する:睡眠不足や中途覚醒などの質の低下は、交感神経を刺激して血圧を上昇させます。短時間睡眠が高血圧リスクを高めることは多くの研究で確認されており、週末の「寝だめ」ではなく、平日の睡眠時間をしっかり確保することが重要です。
・BMI 25未満を目指す(体重管理):肥満、特に内臓脂肪の蓄積は血圧を上げるホルモンの分泌を促します。わずかな減量からでも血圧や血糖値の改善効果が得られるため、スモールステップでの体重管理を支援していきましょう。
職場の健康管理でお悩みなら
従業員個人の努力や現場の管理職任せにするのではなく、組織として高血圧を重症化させないための仕組みを整備していくことが大切です。
① 受診勧奨の徹底とフォローアップ
基準を超えたら迷わず受診へ:健診で「140/90mmHg以上」となった従業員には、自覚症状の有無にかかわらず速やかな医療機関の受診を推奨しましょう。放置のリスクを丁寧に伝え、受診しやすい環境を整えることが企業の安全配慮義務に繋がります。
② 定期的な血圧測定の推奨
職場に血圧計を設置する:1年に1回の健診のみでは「たまたま緊張して高かっただけ」と安直に解釈されがちです。社内の休憩室などに血圧測定器を設置し、定期的に自身の普段の血圧(職場血圧)を把握してもらうことが、従業員自身の行動変容を促す大きなきっかけとなります。
高血圧対策は、単なる個人の健康管理にとどまりません。従業員の突然の離脱を防ぎ、プレゼンティーイズム(出勤しているが不調でパフォーマンスが上がらない状態)を解消するための、最も費用対効果の高い「経営戦略」の1つです。減塩だけでなく、運動や睡眠を含めた総合的なアプローチで、従業員が健康に働き続けられる職場環境を作っていきましょう。
頭ごなしに「血圧を下げてください」とプレッシャーをかけても、自覚症状がない多忙な従業員にとって、生活習慣の改善はなかなかハードルが高いのが実情です。しかし、高血圧の放置は一歩ずつ確実に健康を蝕んでいきます。例えば、職場の目立つ位置に血圧計を置いてみるだけでも、従業員の意識は少しずつ変わっていきます。日々の血圧測定を習慣に取り入れてもらい、ご自身の体の状態を自覚してもらうことから、温かくサポートを始めてみてください。私たち産業医も一緒に伴走いたします。
産業医の選任・見直しをご検討
・Dickinson HO, et al. Lifestyle interventions to reduce raised blood pressure: a systematic review of randomized controlled trials. J Hypertens. 2006;24(2):215-233
・厚生労働省. 健康日本21(第三次)推進のための説明資料
・厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版)
コラム一覧に戻る