年度末は「決算業務」や「異動・引継ぎ」が重なり、従業員の負荷がピークに達します。
36協定の範囲内であっても、環境変化との複合要因でメンタル不調が急増するメカニズムと、人事が現場に周知すべきラインケアの鉄則を解説します。
36協定の「特別条項」に潜む罠
年度末は繁忙期のため、36協定の「特別条項」を適用し残業上限を引き上げている企業も多いでしょう。「月80時間(過労死ライン)を超えなければ法的にクリア」と考えがちですが、日本の労災認定基準では時間外労働が月45時間を超えると業務と健康障害との関連性が徐々に強まるとされています。
さらに、WHO(世界保健機構)とILO(国際労働機関)の共同研究では、週55時間以上の労働で脳卒中や虚血性心疾患のリスクが有意に上昇すると報告されており、月45時間は『安全圏の限界ライン』と捉えるべきです。特に年度末は、環境要因が加わるため、通常月と同じ残業時間であっても、心身へのダメージはいつもよりも増加していると捉えるべきです。
なぜ、3月は危ないのか。それは「長時間労働」に、以下の3つのストレス要因が掛け合わされるからです。
このような複合リスク下では、現場の管理職によるラインケアが重要となります。
鉄則①:引継ぎスケジュールの「引き算」介入
管理職は、部下が「通常業務」と「引継ぎ」を両立しようとしてパンクしていないか監視する必要があります。「引継ぎ資料は要点のみでOK」「通常業務の納期を4月にずらす」など、業務の総量を調整(引き算)する権限を行使できるのは上司だけです。
鉄則②:「いつもと違う」を見逃さない
多忙な時期は互いに無関心になりがちです。以下のサインが出ていないか、チェックリストとして管理職に共有してください。
鉄則③:飲み会への配慮
歓迎・送別会などのシーズンでもありますが、疲労困憊の部下にとって、連日の飲み会は「追い打ち」になることもあります。「参加は任意」「一次会で切り上げる」など、部下の休息時間を奪わない配慮も重要です。
現場任せにせず、人事労務部門として以下の仕組みを検討してみてください。
年度末を乗り切っても、4月の新年度スタート時に主力社員が「燃え尽き症候群」で休職してしまっては、企業の損失は計り知れません。「忙しいのは皆同じ」という精神論を捨て、「今の時期は複合リスクが高い」という事実を組織全体で共有することが、従業員と会社を守る第一歩です。
産業医からのワンポイントアドバイス
管理職の方々自身も、期末の数字のプレッシャーで視野が狭くなりがちです。人事からは、「部下の引継ぎ状況の管理も、今月の重要な『業務』として評価しますよ」と伝えてあげてください。それだけで、管理職は「部下のケアに時間を使っていいんだ」と安心でき、現場の空気が変わります。
参考文献
・WHO/ILO Joint Estimates of the Work-related Burden of Disease and Injury, 2000-2016.
・厚生労働省. 令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況
・厚生労働省. 過重労働による健康障害を防ぐために
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