メンタルヘルス

年度末のメンタル不調対策|36協定内の残業リスクとラインケア

作成日:2026年2月26日

はじめに

年度末は決算業務や異動、引継ぎが重なり、従業員の業務負荷や心理的ストレスが一年で最もピークに達する時期です。「36協定の範囲内(月80時間未満)だから問題ない」と安心していると、思わぬメンタル不調の連鎖を招く恐れがあります。
本記事では、残業時間と環境変化がもたらす複合的な健康リスクのメカニズムと、人事が現場に周知すべきラインケアの実践方法について解説します。


1. 「月80時間未満」なら安全か?36協定内に潜む過労リスク

年度末の繁忙期に36協定の「特別条項」を適用し、残業上限を引き上げている企業も多いでしょう。しかし、「月80時間(過労死ライン)を超えなければ法的にクリアで健康被害もない」と考えるのは危険です。日本の労災認定基準でも、時間外労働が月45時間を超えると業務と健康障害との関連性が徐々に強まるとされています。WHO(世界保健機関)とILO(国際労働機関)の共同研究結果からも、週55時間以上の労働で脳卒中や虚血性心疾患のリスクが有意に上昇することが報告されています。月45時間はあくまで「安全圏の限界ライン」と捉える視点が必要です。

 

2. 年度末特有の「残業×環境変化」の複合リスク

ストレス要因が重なる危険性
年度末に不調者が急増するのは、単なる長時間労働に以下の3つのストレス要因が掛け合わされるためであることが、労働安全衛生調査などの研究結果から示唆されています。

・引継ぎによる「認知負荷」の増大:異動や退職に伴う引継ぎやマニュアル作成など、慣れない業務は脳のワーキングメモリを大きく消費し、労働時間以上の深い疲労を蓄積させます。

・評価や異動への「心理的プレッシャー」:人事評価のフィードバックや自身の異動、親しい同僚との別れといったイベントが集中します。「役割や地位の変化」は非常に強いストレス要因となり、メンタルヘルスの耐性を一時的に低下させます。

・季節性(寒暖差・花粉)による「自律神経の乱れ」:3月は寒暖差が激しく自律神経が乱れやすい上、花粉症による睡眠の質の低下も起きやすい時期です。ベースの体調が落ちている状態での過重労働は、心身の不調リスクを跳ね上げます。

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3. 人事労務ができる「組織的」な年度末ラインケア対策

現場の崩壊を防ぐため、人事が主導して管理職へ共有・徹底すべき具体的なアクションを整理します。

① 引継ぎスケジュールの「引き算」介入
業務総量のコントロール:部下が通常業務と引継ぎの両立でパンクしないよう、管理職が介入します。「引継ぎ資料は要点のみにする」「通常業務の納期を4月にずらす」など、業務を引き算する権限を行使するよう管理職に促しましょう。

② 「残業+有休消化」のモニタリング
隠れ過重労働の防止:退職や異動前の有休消化と業務引継ぎがバッティングし、少ない出勤日に極端な長時間労働が発生していないか、人事が勤怠データをこまめに確認し、異常があれば現場へアラートを出します。

③ 産業医面談の「プッシュ型」勧奨
高リスク群への先制アプローチ:「月45時間超+異動対象者」といった高リスク群を人事側でピックアップし、体調確認のメールを送るだけでも大きな抑止力になります。必要に応じて産業医面談へ繋ぐルートを確保しておきましょう。


まとめ

年度末をなんとか乗り切っても、4月の新年度スタート時に主力社員が「燃え尽き症候群」で休職してしまっては、企業の損失は計り知れません。「忙しいのは皆同じ」という精神論を捨て、年度末特有の複合リスクを組織全体で共有することが、大切な従業員と会社を守る第一歩となります。

産業医からのワンポイントアドバイス

現場の管理職の方々自身も、期末の数字のプレッシャーで視野が狭くなりがちです。人事の皆様からは、「部下の引継ぎ状況や体調を管理することも、今月の重要な『業務』として会社は評価しますよ」と伝えてあげてください。その一言で、管理職は「部下のケアに時間を使っていいんだ」と安心することができ、現場の空気が温かく前向きなものへと変わっていきます。

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参考文献

・Pega F, et al. Global, regional, and national burdens of ischemic heart disease and stroke attributable to exposure to long working hours for 194 countries, 2000-2016: A systematic analysis from the WHO/ILO Joint Estimates of the Work-related Burden of Disease and Injury. Environ Int. 2021;154:106595.
・厚生労働省. 令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況
・厚生労働省. 過重労働による健康障害を防ぐために

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