「従業員の喫煙率が下がらず、社内の健康増進が進まない」。人事労務担当者の皆様、このようなお悩みはありませんか?
喫煙は個人の嗜好にとどまらず、「ニコチン依存症」という治療が必要な疾患です。意志の力だけで禁煙を成功させるのは難しく、企業が組織的に支援を行うことが、従業員の健康を守り、見えない生産性の低下を防ぐ鍵となります。
本記事では、喫煙が企業にもたらすリスクと、医学的根拠に基づいた効果的な禁煙支援策をわかりやすく解説します。
現代の医学において喫煙は単なる趣味嗜好ではなく、「ニコチン依存症」という治療が必要な病気です。喫煙による日本の超過死亡(たばこがなければ避けられた死)は年間約21.2万人にのぼり、高血圧や高血糖を抑えてリスク要因のワースト1位となっています。また、能動喫煙と受動喫煙を合わせた超過医療費は年間1.5兆円に達するという報告もあり、企業にとっても貴重な人材を突然の疾病から守るためのリスクマネジメントが不可欠です。
従業員が「根性」や「意志の力」だけで禁煙を達成するのは極めて困難です。ニコチンは脳の受容体に結合し、強烈な依存を生み出します。医学的アプローチがいかに有効であるか、研究結果をご紹介します。
・禁煙治療薬による成功率の大幅な向上:禁煙治療薬を使用した場合、プラセボ(偽薬)と比較して禁煙成功率が2倍から3倍以上に高まることが証明されています。科学的に効果が証明された薬を使うことが、最も確実なルートと言えます。
・ニコチン切れによる生産性の低下:ニコチンは約30〜60分で分解され、「ニコチン切れ(離脱症状)」を引き起こします。喫煙者が何度も離席するのは、欠乏したニコチンを補給してマイナスをゼロに戻すためであり、これが目に見えない生産性の低下を招いていることが指摘されています。
職場の健康管理でお悩みなら
企業が従業員の背中を押し、禁煙を成功に導くための具体的な3つのステップを整理します。
① 禁煙のメリットを可視化して伝える
すぐに現れる健康効果の周知:禁煙の効果は、20分後に血圧と脈拍が下がり始め、24時間後には心臓発作のリスクが低下するなど、直後から現れます。「今さら遅い」ということは決してなく、将来の医療費と寿命に直結することを社内報などで周知していくことをおすすめします。
② 禁煙外来の受診を推奨する
保険適用を活用した治療サポート:一定の条件(ニコチン依存症テスト5点以上、35歳以上の場合はブリンクマン指数200以上など)を満たせば、健康保険が適用され自己負担を抑えて治療を受けることができます。「根性」ではなく医療の力を借りる選択肢を、積極的に案内していきましょう。
③ 動画教材などを活用した社内啓発
正しい知識のアップデート:「加熱式たばこなら安全」という誤解を持たれている方も多くいらっしゃいます。加熱式たばこにも有害物質は含まれているため、専門家による動画コンテンツなどを活用し、正しい知識を組織全体に広めていくことが効果的です。
喫煙対策に取り組むことは、短期的には時間やコストがかかるかもしれません。しかし、長期的には「突然の病気による離職」や「見えない生産性の低下」を防ぐ最高のリスクマネジメントとなります。禁煙支援を個人の問題として片付けず、企業として寄り添う体制を整え、従業員が健康で長く活躍できる職場を作っていきましょう。
禁煙をおすすめする際、「体に悪いからやめましょう」と正論を伝えるだけでは、かえって心を閉ざされてしまうことがあります。「あなたが長く活躍してくれることが会社にとって大切だから、健康を守るお手伝いをさせてほしい」という前向きなメッセージを伝えてみることをおすすめします。また、仮に禁煙に一度失敗しても決して責めないでください。依存症からの脱却には複数回の挑戦が必要と言われています。私たち産業医は、何度でも挑戦する従業員と、それを温かく支える人事の皆様の味方です。一緒に取り組んでいきましょう。
産業医の選任・見直しをご検討
・厚生労働省. 令和6年「国民健康・栄養調査」の結果の概要.
・厚生労働省. 健康日本21(第三次)推進のための説明資料.
・日本循環器学会ほか. 禁煙治療のための標準手順書 第8.1版.
・日本呼吸器学会. 加熱式タバコや電子タバコに関する日本呼吸器学会の見解と提言.
・Hartmann-Boyce J, et al. Pharmacological interventions for smoking cessation: an overview and network meta-analysis. Cochrane Database Syst Rev. 2023
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